生活保護の遺品整理費用。結局誰が払う?払わないで済む条件を解説

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私自身、過去に何度も不用品回収サービスに助けられた
元・ヘビーユーザーです。
その実体験から、いざという時に頼れる『利用者目線の情報』をお届けするという
理念を掲げ、実体験に基づいた情報をお届けします!

こんな人におすすめ

  • 生活保護を受けていた親族が亡くなり、「片付け費用は誰が払うの?」と不安で夜も眠れない方
  • 役所や管理会社から「早く片付けて」と連絡が来て、「高額な請求」をされないか怯えている方
  • 故人に借金があるかもしれないので、「相続放棄」を考えているが、遺品をどうすればいいか分からない方

この記事でわかること

  • 行政は1円も出さない?「遺品整理費用の支払い義務」の残酷な真実
  • ゴミを一袋捨てると借金確定?知らずにやると人生が詰む「単純承認の罠」
  • 連帯保証人じゃなければ払わなくていい!「大家・役所への正しい断り方」のテンプレート
  • 「損をしない業者選び」と、費用を最小限に抑えるための自力×業者のハイブリッド手順
目次

第1章:まず確認すべき「お金」と「責任」の境界線

「もしもし、〇〇区役所の保護課ですが……」

私の携帯電話にこの着信があったのは、蒸し暑い平日の昼下がりでした。数年間、疎遠にしていた叔父が亡くなったという知らせ。それも、生活保護を受けていたアパートでの孤独死でした。

頭が真っ白になる中で、最初に私の脳裏をよぎったのは、叔父への悲しみよりも「え、これ全部わたしが片付けるの?費用はどうなるの?」という、冷たいようですが切実な恐怖でした。

もし今、あなたが同じような状況でこのページを開いているなら、まずは深呼吸してください。この章では、私が当時必死で調べ、実際に役所とやり取りをして分かった「お金と責任のリアル」を包み隠さずお伝えします。

遺品整理費用は誰が払うのか?「役所が出してくれる」は誤解です

結論から申し上げます。生活保護受給者が亡くなった場合、国や役所が遺品整理(部屋の片付け)の費用を出してくれる制度は、原則として存在しません。

ここが最大の誤解ポイントです。「生活保護を受けていたのだから、最後まで面倒を見てくれるはず」と思っていると、痛い目を見ます。

葬儀に関しては葬祭扶助という制度があり、一定の条件(遺族にも支払い能力がない場合など)を満たせば、火葬費用などは公費で賄われます。しかし、これはあくまで「お骨にするまで」の話。

アパートに残された家具、家電、山のような衣類、そして生活ゴミ。これらを処分する費用は葬祭扶助の対象外なのです。

では、誰が払うことになるのか?法的な建前と、現場のリアルは以下のようになります。

  • 法的な原則:相続人(あなたたち親族)が遺産を相続するなら、その中から払う。相続放棄すれば払う義務はない。
  • 現場のリアル:大家や管理会社から、連絡が取れる親族(あなた)へ「道義的責任」として片付けを頼まれる。

私は当時、この「法的には義務がないが、心情的に断りづらい」というグレーゾーンで強烈なストレスを感じました。

片付けが遅れるほど「損」をする現実

実は、遺品整理において最も恐ろしいのは、整理費用そのものよりも「判断の遅れ」による損失です。

私が現場で痛感したのは、親族が「どうしよう」と迷っている間にも、家賃は発生し続けているという事実でした。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理を経験した男女350名に「整理のタイミングで最も金銭的に損をしたと感じたこと」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 解約予告が遅れて余分な家賃が発生した(62%)
  • 急いで業者を手配したため割高な料金になった(21%)
  • 解約した後に必要な書類が見つかり再発行手数料がかかった(10%)
  • その他(7%)

※調査期間:2024年1月〜3月 対象:自社へご相談いただいた遺品整理経験者

この結果が示す通り、6割以上の方が「家賃」で損をしています。特に生活保護受給者の場合、死亡した時点で住宅扶助(家賃補助)が打ち切られるため、翌月分からの家賃は全額「実費」での請求となります。

「まだ片付ける心の整理がつかない」と放置してしまうと、誰も住んでいない部屋の家賃を、親族が自腹で払い続けることになりかねません。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

死亡の連絡を受けたら、まずは管理会社へ「退去する方向で考えているが、相続の手続き中なので少し待ってほしい」と一報を入れましょう。ただし、この段階で「私が全額払います」や「すぐに片付けます」と書面にサインするのは禁物です。債務の承認とみなされるリスクがあるからです。

部屋から出てきた「現金」を絶対に使ってはいけない

片付けを始めると、タンスの奥や封筒から現金が出てくることがあります。生活保護の方は口座管理されていることが多いですが、手元に数万円〜数十万円のタンス預金を残しているケースは珍しくありません。

ここで絶対にやってはいけないのが、「あ、これで遺品整理代を払おう」と使ってしまうことです。

これは私の失敗談ですが、叔父の財布にあった3万円を「どうせ未払い家賃があるだろうから」と大家に渡そうとして、司法書士の友人に全力で止められました。理由は2つあります。

  1. 相続の単純承認とみなされる 故人の財産(現金)を使った時点で、あなたは「借金も含めてすべて相続します」と意思表示したと法的にみなされます。もし叔父に高額な借金があった場合、その3万円を使ったせいで、何百万円もの借金を背負うことになるのです。
  2. 生活保護費の返還請求 亡くなった月や、入院していた期間の生活保護費が「払いすぎ(過誤払い)」になっている場合があります。部屋に残っていた現金は、この返還金に充てられるべきものであり、勝手に使うと横領に近いトラブルになりかねません。

現金を見つけたら、まずは手を付けずに保管し、役所のケースワーカーに報告するのが正解です。

参照リンク

生活保護受給者の葬儀費用(葬祭扶助)については、厚生労働省のガイドラインも必ず確認してください。 厚生労働省:生活保護制度の概要


この第1章でお伝えしたかったのは、「自分でお金を出して片付ける」と決める前に、必ず「立ち止まる」ことです。

次章では、さらに恐ろしい「知らずにやってしまうと借金地獄? 相続と遺品整理の法的な罠」について、詳しく解説します。うかつにゴミを一袋捨てただけで、あなたの人生が変わってしまうかもしれません。

第2章:最大の落とし穴「相続」と「法的リスク」

「とりあえず、ゴミだけでも捨てておこうか」

叔父の部屋の悪臭に耐えかねて、私が不用意にゴミ袋を手に取ったときでした。同行してくれた専門家が、血相を変えて私の腕を掴みました。

「ストップ!それを捨てたら、借金を全部背負うことになりますよ!」

大げさだと思いましたか?いいえ、これは法的な事実です。生活保護受給者の遺品整理において、最も警戒すべきは「汚部屋の片付け」ではありません。目に見えない「負の遺産(借金)」と、それを強制的に背負わされる「単純承認」という法の罠です。

この章では、良かれと思ってやった片付けが、なぜあなたの生活を脅かすトリガーになるのか、その危険なメカニズムと回避策を解説します。

遺品整理=相続承認? 知っておくべき「単純承認」の恐怖

民法には「単純承認」というルールがあります。これは、相続人が故人の財産を「処分」した場合、自動的に「借金も含めてすべて相続する意思がある」とみなされる規定です。

ここで言う「処分」の定義が、一般人の感覚とは大きく異なります。

  • 価値のある家電をリサイクルショップに売った
  • 故人の銀行口座から葬儀代を引き出した
  • アパートの解約手続きをして、部屋の荷物を全撤去した

これらはすべて「処分」にあたり、これを行った瞬間に、あなたは後述する「相続放棄」ができなくなります。つまり、もし故人にサラ金からの借金が100万円あった場合、あなたがそれを返済しなければならなくなるのです。

生活保護受給者は資産がないから保護を受けているはずだ、と思うかもしれません。しかし、隠れた借金のリスクは非常に高いのが現実です。

【お片づけの窓口独自アンケート】

「生活保護を受けているから借金はないはず」という思い込みがいかに危険か、データが証明しています。

遺品整理・相続手続きを経験した男女350名に「亡くなった親族に借金や未払い金が発覚したタイミング」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 遺品整理中に督促状が出てきて発覚した(58%)
  • 役所や金融機関からの通知で知った(25%)
  • 生前に本人から聞いていた(12%)
  • その他(5%)

※調査期間:2025年 対象:自社へご相談いただいた遺品整理経験者

約6割の方が、部屋を片付けている最中に督促状を見つけて青ざめています。もし、その督促状を見つける前に、金目の物を売ったり部屋を解約してしまっていたら……あなたはもう、その借金から逃れることはできません。

「相続放棄」という最強の盾と、その限界

借金のリスクを回避する唯一の方法が、家庭裁判所への「相続放棄」の申し立てです。

これは「プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない」という手続きで、故人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。

私が叔父の件で動いた際も、まずは部屋の中をひっくり返す前に、この相続放棄を視野に入れて動きました。しかし、ここにも落とし穴があります。

「相続放棄をしたから、もう私は関係ない。部屋の片付けもしない」と大家に伝えたところ、「じゃあ、このゴミ屋敷の管理責任はどうなるんだ!」と猛抗議を受けたのです。

実は、2023年の民法改正により、相続放棄をした後の「管理責任」のルールが明確化されました。

  • 改正前:相続放棄をしても、次の管理者が決まるまでは管理義務が残る曖昧さがあった。
  • 改正後:現に遺産を占有(自分の支配下に置いている)している場合に限り、保存義務が生じる。

まり、あなたが合鍵を持っていて部屋に出入りし、荷物を整理し始めていた場合、「現に占有している」とみなされ、放棄後も最低限の管理責任を問われる可能性があります。逆に、一度も部屋に入らず鍵も預かっていない状態なら、強気で交渉できる余地が生まれます。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

大家や管理会社から「退去届だけでも書いてほしい」「残置物の処分に関する同意書にサインして」と言われても、安易にサインしてはいけません。その行為自体が「処分(=単純承認)」とみなされる判例があるからです。書類には「相続放棄を検討中であるため、現時点では署名できません」と答えるのが鉄則です。

形見分けはどこまで許される?

「せめて写真や、愛用していた時計くらいは持ち帰りたい」という気持ちは痛いほど分かります。しかし、ここでも線引きはシビアです。

  • OKライン(一般的に): 市場価値がほとんどないもの(手紙、写真、安価な衣服)。これらは「形見分け」として認められるケースが多いです。
  • NGライン(危険): 市場価値があるもの(貴金属、新しい家電、自動車、美術品)。これらを持ち帰ると「資産の分配」とみなされます。

判断に迷う場合は、「何も持ち帰らない」のが最も安全です。どうしても持ち帰りたいものがある場合は、必ず弁護士や司法書士に「これは市場価値がないと判断して良いか」を確認してください。

参照リンク

相続放棄の具体的な手続きや必要書類については、裁判所の公式サイトで最新情報を確認してください。 裁判所:相続の放棄の申述


第2章では、触らぬ神に祟りなし、ならぬ「触らぬ遺品に借金なし」の鉄則をお伝えしました。

しかし、現実には役所のケースワーカーや大家から「早くなんとかしてくれ」と矢の催促が来ます。次章では、そんな板挟み状態を突破するための「対行政・対大家の交渉マニュアル」について解説します。彼らの「常套句」を知っているだけで、あなたの負担は劇的に軽くなります。

第3章:行政(役所・ケースワーカー)への対応マニュアル

「ご遺体の火葬まではこちらで手配しました。あとはご親族の方で、部屋の片付けをお願いします」

役所の窓口で、担当のケースワーカー(CW)からこう言われた時、私は耳を疑いました。「え?生活保護を受けていたのに、死後の片付けは丸投げなんですか?」と。

担当者の表情は変わりませんでした。「制度上、受給者様が亡くなられた時点で保護は廃止となります。その後の住居の原状回復は、ご親族と大家さんの間の民事不介入の案件となりますので」

まさに事務的対応。しかし、彼らを責めても事態は解決しません。彼らも法律の範囲内でしか動けないからです。

この章では、冷たくも感じる行政の壁を理解し、その上でどう立ち回ればあなたが損をしないか、その具体的な交渉術をお伝えします。

ケースワーカーはどこまで手伝ってくれるか

生活保護の担当ケースワーカーは、受給者の自立を支援するのが仕事です。しかし、受給者が亡くなった瞬間、その業務上の関係は基本的に終了します。

私が実際に経験し、多くの相談者から聞いた「行政がやってくれること・くれないこと」の境界線は以下の通りです。

【やってくれること】
  • 死亡の連絡:親族への通知
  • 葬祭扶助の手配:親族に支払い能力がない、または遺体の引き取り手がない場合の火葬手配
  • 納骨の相談:無縁仏としての埋葬手配(親族が引き取らない場合)
【やってくれないこと】
  • 遺品整理業者の手配:特定の業者を紹介することは癒着になるため、基本的には行いません
  • 部屋の片付け費用の負担:前章でお伝えした通り、一切出ません
  • 大家との仲裁:退去費用の交渉などに介入することはありません

つまり、部屋の鍵を渡されたその瞬間から、あなたは行政の支援なき荒野に放り出されることになります。

【お片づけの窓口独自アンケート】

実際、役所の対応にどれくらいの人が助けられたと感じているのでしょうか。

遺品整理を経験した男女350名に「役所の担当者(ケースワーカー)は遺品整理に関して協力的でしたか?」と聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 事務的で、何も手伝ってくれなかった(72%)
  • 業者のリストなどを渡して情報提供してくれた(18%)
  • 親身になって相談に乗ってくれた(10%)

※調査期間:2025年1月〜3月 対象:自社へご相談いただいた遺品整理経験者

7割以上の方が、行政の対応を「非協力的」と感じています。期待すると裏切られた気持ちになるため、「彼らは火葬までが仕事」と割り切って考えることが、精神衛生上も重要です。

「片付けてください」と言われた時の魔法の言葉

ケースワーカーも人間ですから、管轄内のアパートがゴミ屋敷のまま放置されるのは困ります。そのため、親族であるあなたに対し、「なるべく早く片付けて、退去手続きをしてください」とプレッシャーをかけてくることがあります。

私の時もそうでした。「来月分の家賃が発生する前に…」と急かされましたが、ここで焦って「はい、やります」と答えてはいけません。

そう答えた時点で、あなたが「管理者」としての責任を認めたことになり、後から相続放棄をしにくくなるリスクがあるからです。

役所や大家から急かされた時に使うべき、正当かつ効果的な断り文句(魔法の言葉)はこれです。

「現在、相続放棄の手続きを検討しており、家庭裁判所の判断を待っている状態です。単純承認とみなされる行為(片付け)はできないと専門家に言われています」

こう伝えれば、ケースワーカーもそれ以上強くは言えません。彼らも法律のプロ(あるいは準ずる知識を持つ者)ですから、単純承認のリスクを冒してまで強要することはできないのです。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

役所との会話は、言った言わないのトラブルになりがちです。特に電話でのやり取りは、必ず「日時」と「担当者名」と「会話の内容」をメモに残してください。「◯月◯日に担当の佐藤さんから、片付けは強制ではないと聞きました」というメモが、後々のトラブルであなたを守る証拠になります。

自治体によっては使える「隠れた補助制度」

原則として遺品整理の補助金はありませんが、自治体によっては独自の制度を設けている場合があります。

例えば、私の友人が住むある自治体では、「高齢者世帯住み替え支援」の一環として、一定の条件下で不用品処分の補助が出るケースがありました。また、社会福祉協議会がボランティアを紹介してくれる場合もあります。

ダメ元で確認すべき質問は以下の通りです。

  • 「社会福祉協議会で、安く不用品を回収してくれるボランティア制度はありませんか?」
  • 「粗大ごみの減免制度(生活保護受給者世帯向け)は、遺品整理時にも適用されますか?」

特に粗大ごみの手数料免除は、故人の名義で申請できる期間内であれば使える可能性があります。私が叔父の部屋を片付けた際は、これにより数千円ですが費用を浮かせることができました。

参照リンク

生活保護受給者の遺留金品の取り扱いについては、各自治体の条例や厚生労働省の通知に基づきます。以下のリンクは一般的な福祉事務所の役割に関するものです。 厚生労働省:福祉事務所の所管事務


第3章では、行政への期待値を調整し、法的な盾を使ってプレッシャーを回避する方法をお伝えしました。

しかし、役所をかわせてとしても、次に立ちはだかるのが「大家・管理会社」です。彼らはビジネスで部屋を貸しているため、役所よりもシビアに金銭を請求してきます。

次章では、最も金銭トラブルになりやすい「賃貸物件の退去と原状回復」について、敷金ゼロ物件の恐怖や、連帯保証人がいない場合の戦い方を解説します。

第4章:賃貸物件・大家とのトラブル回避

「現状回復費用として、80万円を請求させていただきます」

管理会社から届いた見積書を見たとき、私の手は震えました。叔父が住んでいたのは、家賃4万円の古びた木造アパートです。それなのに、なぜ家賃の20倍もの請求が来るのか。

理由は「孤独死」による汚れと臭いでした。

生活保護受給者の多くは賃貸物件に住んでいますが、亡くなった後の退去手続きは、まさに地雷原です。大家も商売ですから、回収できない家賃や修繕費を、必死になって親族である私たちから取ろうとします。

この章では、法外な請求から身を守り、親族としての「支払い義務」の境界線を明確にする方法を解説します。これを知らなければ、私は言われるがまま80万円を払っていたかもしれません。

「連帯保証人」と「緊急連絡先」は天と地ほど違う

まず、あなたがアパートの契約書において、どの立場になっているかを確認してください。これが運命の分かれ道です。

生活保護受給者の場合、親族と疎遠になっているケースが多いため、親族は「連帯保証人」ではなく「緊急連絡先」になっていることがよくあります。

  • 連帯保証人:故人と同等の支払い義務がある。滞納家賃も原状回復費も、逃れられない。
  • 緊急連絡先:法的な支払い義務は一切ない。あくまで「何かあった時に連絡を受ける人」。

管理会社は、あなたが「緊急連絡先」でしかないと知っていても、あえて強い口調で「親族なんだから払うのが常識だ」と請求してくることがあります。これは彼らの常套手段です。

もしあなたが「緊急連絡先」であるなら、毅然とした態度でこう伝えてください。

「私は保証人ではありません。法的な支払い義務はないため、請求には応じられません」

心が痛むかもしれませんが、自分の生活を守るためには必要な線引きです。

【お片づけの窓口独自アンケート】

賃貸トラブルは金銭的な問題だけではありません。実際にどんなトラブルが現場で起きているのか調査しました。

遺品整理を経験した男女350名に「賃貸物件の退去時に大家・管理会社と揉めた原因」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 高額な原状回復費用(特殊清掃含む)を請求された(54%)
  • 相続放棄を伝えたら「荷物を勝手に処分する」と脅された(25%)
  • 連帯保証人ではないのに滞納家賃を請求された(15%)
  • その他(6%)

※調査期間:2024年1月〜3月 対象:自社へご相談いただいた遺品整理経験者

半数以上が、高額な請求に直面しています。特に孤独死の場合、次項で説明する「特殊清掃」が絡むため、金額が跳ね上がるのです。

孤独死の代償「特殊清掃」は誰が払う?

遺体の発見が遅れた場合、部屋には体液による汚染や死臭が染み付いています。これを元の状態に戻すには、通常のクリーニングではなく「特殊清掃」という専門技術が必要です。

費用相場は、汚れの程度にもよりますが、消臭作業だけで10万円〜50万円、床の解体まで含めると100万円を超えることも珍しくありません。

ここで重要なのは、「相続放棄をすれば、この特殊清掃費用も払わなくて良い」という点です。

しかし、注意してください。大家から「臭くて近所迷惑だから、とりあえず清掃だけでも先にやらせてくれ。費用は後で話し合おう」と言われ、あなたが「はい、お願いします」と承諾書にサインしてしまったらどうなるか。

そのサインは、あなたが「私が発注者です」と認めたことになり、相続放棄をしても、その清掃業者への支払い義務だけはあなたに残る可能性があります。

「近隣への迷惑」という言葉は強力な武器ですが、そこで動揺してハンコを押さないでください。

残された荷物(残置物)はどうする?

相続放棄をする場合、部屋の中にある荷物(残置物)も「一切触らない」のが鉄則です。しかし、いつまでも荷物があると大家は次の入居者を入れられず、損害が拡大し続けます。

この膠着状態を解決するために使われるのが「残置物の権利放棄書」のような書類です。

これは「部屋の中にある荷物の所有権を放棄し、大家さんが自由に処分することに同意します」という内容のものですが、ここにも罠があります。

親族がこの書類にサインをすると、「荷物の処分権を行使した(=相続財産を処分した)」とみなされ、単純承認(借金の相続)になってしまうリスクがあるのです。

私が司法書士から教わった最も安全な対応は、以下の通りです。

  1. 家庭裁判所で相続放棄の手続きを完了させる。
  2. 「相続放棄申述受理通知書」のコピーを大家に送る。
  3. 「私は相続人ではなくなったため、部屋の荷物についても処分する権限を持っていません。そちらで法的な手続き(競売など)を進めてください」と伝える。

冷酷に聞こえるかもしれませんが、これが法律に則った正しい手順です。ただし、大家との関係があまりにこじれると精神的に疲弊するため、実務的には「相続財産管理人」を選任するなど、専門家を間に入れるのが賢明です。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

管理会社から「とりあえず鍵を開けて中を確認してほしい」と言われても、安易に行かないでください。部屋に入って換気をしたり、腐った生ゴミを捨てたりしただけで「管理行為を行った=単純承認」と主張されるリスクがあります。現地に行くときは必ず一人ではなく、第三者(可能なら専門業者や法律家)を伴うのが安全です。

参照リンク

賃貸住宅の原状回復に関する一般的なルールは、国土交通省のガイドラインが基準となります。 国土交通省:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン


第4章では、賃貸物件を巡る金銭トラブルと、それを回避するための法的知識について解説しました。

ここまで読んで、「相続放棄をして逃げ切る」という選択肢が現実味を帯びてきたかもしれません。しかし、もしあなたが「借金はないことが確認できたから、部屋を片付けてあげたい」と決断した場合、あるいは「連帯保証人だからやらざるを得ない」場合は、どうすれば費用を抑えられるのでしょうか?

第5章:遺品整理の実務と業者選び

「見積もり金額、35万円です」
「うちは8万円でやりますよ」

これは、私が叔父の部屋(1DK・ゴミ屋敷気味)の片付けを依頼した際に、実際に出てきた見積もり金額です。同じ部屋なのに、なぜこれほど金額が違うのでしょうか?

最終章となる今回は、あなたが「自分で片付ける」あるいは「業者に頼む」と決めた後に待っている実務の壁と、悪質な業者に搾取されないための防衛策を解説します。

ここまで法的なリスクを回避してきたあなたが、最後の一手で金銭的な損をしないために、この章は必ず読んでください。

「生活保護受給者案件」に慣れている業者を選ぶ

遺品整理業者は星の数ほどありますが、生活保護受給者の部屋(特に孤独死やゴミ屋敷のケース)を依頼する場合、業者選びにはコツがいります。

なぜなら、普通のきれいな引越しのような感覚で依頼すると、作業当日になって「想像以上にゴミが多い」「汚染がひどい」と言われ、追加料金を請求されるトラブルが後を絶たないからです。

私が8万円の業者を選ばず、あえて少し高めの業者(最終的に20万円程度)を選んだ理由は、「安すぎる業者は不法投棄のリスクがある」と知ったからです。もし業者が山林にゴミを捨てて警察沙汰になった場合、依頼主である私にも捜査の手が伸びる可能性があります。

信頼できる業者を見極めるポイントは以下の3点です。

  1. 「一般廃棄物収集運搬業」の許可を持っているか(または許可業者と提携しているか)。
  2. 見積書に「追加料金は一切かかりません」という一文があるか。
  3. 「貴重品の捜索」を徹底してくれるか(隠れた現金や重要書類を見つけるため)。

【お片づけの窓口独自アンケート】

業者選びの失敗は、金銭的なダメージに直結します。

遺品整理を経験した男女350名に「遺品整理業者とのトラブルで最も多かった内容」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 作業当日・終了後に想定外の追加料金を請求された(48%)
  • 作業が雑で、壁や共用部を傷つけられた(22%)
  • 探して欲しいと頼んだ貴重品が見つからなかった(18%)
  • その他(12%)

※調査期間:2025年4月〜9月 対象:自社へご相談いただいた遺品整理経験者

約半数が「追加料金」で揉めています。最初の見積もりが安すぎる業者は、「トラックに乗り切らなかった」などの理由をつけて後から金額を吊り上げる手法(ドア・イン・ザ・フェイス)を使うことがあるため、警戒が必要です。

費用を限界まで安くする「自力×業者」のハイブリッド

「業者に頼むお金なんてない」という場合、親族が自分たちでやるしかありません。しかし、すべてのゴミを自分たちで分別し、収集日に出すのは、遠方に住んでいる場合など物理的に不可能です。

そこで私が実践し、おすすめしたいのが「仕分けは自分、搬出は業者」というハイブリッド方式です。

  • 貴重品と「明らかなゴミ」の仕分け(自分): 通帳、現金、印鑑を探しながら、ペットボトルや雑誌など、自治体のゴミ回収に出せる軽いものを自分たちで捨てます。これだけで物量が減り、見積もりが数万円下がります。
  • 大型家具・家電の処分(業者): タンス、冷蔵庫、洗濯機など、素人では運び出せないものだけを業者に依頼します。

全てを丸投げする「おまかせパック」は楽ですが高額です。自分の労力を少し投じるだけで、費用は確実に抑えられます。

ただし、孤独死で部屋が汚染されている場合は、感染症のリスクがあるため、絶対に自分では入らず、特殊清掃のプロに任せてください。ここをケチると、あなたの健康が脅かされます。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

ず「相見積もり」を取りましょう。最低でも3社。そして、業者への断り方も重要です。「他の親族が別の業者に決めてしまった」と伝えれば、角が立たずにスムーズに断れますよ。

記事のまとめ:あなたが最後に手にする「安心」

全5章にわたり、生活保護受給者の遺品整理にまつわる「お金」「法律」「交渉術」をお伝えしてきました。

検索窓にキーワードを打ち込んだ当初、あなたは「どうしよう、怖い、面倒だ」という不安でいっぱいだったはずです。しかし、今は違います。

  • 費用: 親族に法的支払い義務はないが、道義的責任とのバランスで決めるもの。
  • リスク: 安易な片付け(単純承認)が借金を背負う引き金になること。
  • 交渉: 役所や大家に対して、正しい知識があれば毅然と対応できること。

これらの知識という武器を持った今のあなたは、もう「被害者」ではありません。状況をコントロールできる「当事者」です。

遺品整理は、単なる「ゴミの片付け」ではありません。故人の人生を閉じ、そして残されたあなたが、過去に区切りをつけて前を向くための儀式です。

どうか、焦って自分を犠牲にすることなく、まずは「自分の生活を守ること」を最優先にしてください。それが、結果として最も後悔のない見送り方になるはずです。

参照リンク

悪質な廃品回収業者や遺品整理業者とのトラブルについては、国民生活センターの注意喚起も参考にしてください。 独立行政法人 国民生活センター:廃品回収サービスのトラブル


次のアクション

この記事を読み終えたあなたが、今すぐやるべきことはたった一つです。

「まだ何も触らないこと」

そして、スマホを置いて深呼吸し、まずは「自分は相続放棄をするのか、それとも片付けるのか」という方針を、家族と話し合う時間を作ってください。業者に電話をするのは、その後で十分間に合います。

番外編:よくある質問(Q&A)と最終チェックリスト

「大まかな流れは分かったけれど、私のこのケースはどうなの?」

ここまで読み進めたあなたが、ふと立ち止まってしまう「小さな、しかし切実な疑問」にお答えします。また、最後に「今日やるべきこと」が一目でわかるチェックリストを用意しました。

Q1. 役所から「葬祭扶助(葬儀代)」が出た場合、遺品整理代も少しは出してもらえませんか?

A. 残念ながら、1円も出ません。完全に別の財布です。

葬祭扶助は「最低限の弔い(火葬)」を行うための公費であり、生活扶助(生活費)や住宅扶助(家賃)とは法的根拠が異なります。 「葬式代が出たのだから、片付け代も…」と交渉しても、予算の項目が違うため、ケースワーカーにはどうすることもできないのが現実です。

Q2. 親族全員が「関わりたくない」と無視し続けたらどうなりますか?

A. 法的には逃げ切れますが、精神的なプレッシャーは続きます。

相続人全員が相続放棄をすれば、法的な支払い義務は消滅します。その後、誰も片付けなければ、最終的には大家さんが自費で処分するか、国庫に帰属する手続きが取られます(非常に稀ですが)。 ただし、その間、大家や管理会社からの督促の電話や手紙は、緊急連絡先であるあなたに届き続けます。「法的に義務はない」と突っぱね続けるメンタルの強さが必要になります。

Q3. 部屋に残されたペット(犬・猫)はどうすればいいですか?

A. 最も心が痛む問題ですが、「遺品(財産)」として扱われます。

残酷な言い方ですが、法律上ペットは「モノ(相続財産)」扱いです。相続放棄をする場合、ペットだけを引き取ることは「財産の処分」とみなされ、借金も背負うリスク(単純承認)があります。 しかし、命を放置するわけにはいきません。

  1. 相続放棄する前に、動物愛護団体や里親探しボランティアに相談する。
  2. 弁護士に相談し、「保存行為」として保護が可能か確認する。これらが現実的な対処法です。絶対に野に放ったりしないでください。

Q4. 故人が孤独死で、発見まで1ヶ月かかりました。近隣から損害賠償請求されませんか?

A. 連帯保証人でなければ、基本的に支払う必要はありません。

死臭による近隣トラブル(衣服への臭い移りや精神的苦痛)で損害賠償を求められることがありますが、これも「故人の債務」です。 相続放棄をすれば、この賠償責任も引き継ぎません。ただし、道義的な観点から「お詫び」として菓子折りを持って挨拶に行く程度は、トラブルを大きくしないために有効な場合があります。


【保存版】生活保護・遺品整理の最終チェックリスト

このページをスクリーンショットに撮るか、ブックマークして活用してください。これに沿って進めれば、大きな失敗は防げます。

STEP 1:初動(連絡が来たら)

  • 死亡連絡を受けたら、すぐに現地へ行かず、まずは状況(死因、発見日)を聞く
  • 自分が賃貸契約の「連帯保証人」か「緊急連絡先」かを確認する(契約書がない場合は管理会社に口頭で聞く)
  • 役所のケースワーカーに「葬祭扶助」が適用されるか確認する

STEP 2:現場確認(立ち入る前)

  • 部屋に入る前に「相続放棄」をする可能性があるか、親族会議をする
  • 部屋の鍵を開ける際は、必ず複数人(または第三者)で入る
  • 現金、通帳、重要書類(保険証券、借用書、督促状)だけを探して確保する
  • 出てきた現金は絶対に使わず、封筒に入れて保管する

STEP 3:意思決定(やるか、やらないか)

  • 借金が発覚した場合、または関わりたくない場合は、3ヶ月以内に家庭裁判所で「相続放棄」をする
  • 部屋を片付けると決めた場合、大家に「いつまでに退去するか」の目処を伝える(確約はしない)

STEP 4:実務(片付ける場合)

  • 自分で捨てられるゴミ(可燃・不燃)と、業者に頼むもの(家具家電)を分ける
  • 業者に見積もりを依頼する(必ず3社以上から相見積もりを取る)
  • 「生活保護受給者の案件である」と業者に伝え、追加料金がないか書面で確認する

【編集長からの最後のメッセージ】

ここまで長い記事を読んでいただき、本当にありがとうございました。

生活保護を受けていたご親族の遺品整理は、通常の引越しや整理とは全く違う「重さ」があります。金銭的な負担、法的な不安、そして「なぜこんなことになったのか」というやるせない感情。

あなたが今抱えているその重荷を、この記事が少しでも軽くできたなら、執筆者としてこれ以上の喜びはありません。

完璧な対応なんてしなくていいんです。 「自分の生活を守る」。その一点だけをコンパスにして、霧の中を進んでください。

出口は必ず見つかります。

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