遺品片付けられないは愛の証。辛さを乗り越え前に進む方法

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お片づけの窓口
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私自身、過去に何度も不用品回収サービスに助けられた
元・ヘビーユーザーです。
その実体験から、いざという時に頼れる『利用者目線の情報』をお届けするという
理念を掲げ、実体験に基づいた情報をお届けします!

こんな人におすすめ

  • 親が亡くなり実家の片付けをしなければならないが、悲しみで体が動かず、何から手をつけていいか分からない人
  • 遺品をゴミ袋に入れようとすると「親不孝ではないか」「薄情ではないか」という罪悪感に襲われて手が止まってしまう人
  • 「いつまでに終わらせないと損をするのか」という期限や法律、費用の相場を知り、漠然とした将来の不安を消したい人

この記事でわかること

  • 心が痛まない、罪悪感ゼロで遺品を手放すための「心の持ち方」と具体的な手順
  • 家賃や税金で数百万円の損をしないために、絶対に守るべき「3つの期限」
  • 仏壇・人形・写真など、捨てにくい特殊な遺品の「バチが当たらない処分方法」
  • 悪徳業者に騙されず、安く安全に依頼するための「プロを見抜く3つの質問」
目次

第1章【心構え】なぜ、遺品整理はこんなに辛くて進まないのか

実家の玄関を開けた瞬間、独特の「家の匂い」と共に、今はもういない母の笑い声が聞こえた気がして、その場から一歩も動けなくなる。あなたも今、そんな経験をしていませんか?

私自身もそうでした。父が亡くなった翌月、父の書斎でたった一本のボールペンをゴミ袋に入れるのに30分もかかっていました。「これを捨てたら、父が生きていた証まで消えてしまうんじゃないか」。そんな恐怖で手が震え、涙が止まらなかったのです。

遺品整理が進まないのは、あなたが怠惰だからでも、決断力がないからでもありません。それは、あなたが「モノ」と「記憶」を同一視しているからです。

まずは、その心のブロックを優しく解きほぐし、罪悪感なく片付けを始めるための心の準備から始めましょう。

「捨てられない」は愛情の深さの裏返し

自分を責めるのは、今すぐやめてください。遺品整理の現場では、手が止まってしまう人ほど、故人との関係が深かった傾向にあります。

私たちは独自に、遺品整理で「手が止まってしまった理由」について調査を行いました。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理を経験した男女350名に「作業中に手が止まってしまった最大の心理的要因」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 「捨てると故人との思い出が消える気がした」(52%)
  • 「生前の姿(筆跡や匂い)を感じて辛くなった」(28%)
  • 「これを捨てるなんて薄情だという罪悪感」(15%)
  • その他(5%)

※調査期間:2023年5月〜8月 対象:弊社へご相談いただいた遺品整理経験者

この結果からも分かる通り、半数以上の方が「モノを失うこと=思い出を失うこと」と無意識に感じています。つまり、あなたは単なるゴミを捨てようとしているのではなく、「故人との精神的な繋がり」を守ろうとしているのです。

手が止まるのは、あなたが故人を深く愛していた何よりの証拠です。まずは「進まなくて当たり前なんだ」と、今の自分の状態を認めてあげてください。

「捨てる=薄情」という呪いを解く

多くの遺族を苦しめるのが、「親が大切にしていたものをゴミ袋に入れるなんて、なんて親不孝なんだ」という強烈な罪悪感です。

しかし、視点を少し変えてみましょう。モノには必ず「役目」があります。

父が愛用していた湯呑みは、「父の喉を潤す」という役目を持っていました。父が亡くなった今、その湯呑みは役目を終え、ただの物質に戻っています。

「今まで父を支えてくれてありがとう」

そう感謝して手放すことは、決して薄情な行為ではありません。むしろ、役目を終えたモノを、誰も使わない薄暗い押し入れに何年も閉じ込め続けることの方が、モノにとっては悲しいことかもしれません。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

どうしてもゴミ袋に入れるのが辛い時は、無理に「捨てる」と思わないでください。「お焚き上げ」や「供養」という言葉を使うだけで、心はずいぶん軽くなります。ゴミ袋に入れるのが忍びないなら、白い紙や布に包んで、塩を少しふり、「ありがとう」と小声で呟いてから袋に入れてみてください。それだけで、それは「廃棄」ではなく「送り出す儀式」に変わりますよ。

どうしても辛い時の「逃げ道」を作っておく

いきなり100点の片付けを目指すと必ず挫折します。心が折れそうな時は、自分に「逃げ道」を用意してあげてください。

  • 写真は撮ってから手放す
    • デジタルデータとして残せば、物理的な場所は取りません。「現物」ではなく「画像」で記憶を保存するのです。これなら「いつでも見返せる」という安心感が生まれ、手放すハードルが下がります。
  • 「保留ボックス」を作る
    • 「捨てる」か「残す」かの二択で迫るから苦しくなるのです。「今は決められない」という箱を作ってください。その箱にガムテープをして日付を書き、来年の法要の時にもう一度開ければいいのです。「今、決断しなくていい」というルールにするだけで、不思議と他のモノの整理が進むようになります。

心の整理がつかないうちは、身体も動きません。まずは「捨てられない自分」を許し、小さな「ありがとう」を一つ言うことから、あなたの遺品整理は始まります。

[参考リンク:厚生労働省 こころの耳(大切な人を亡くしたあなたへ)]

第2章【時期】いつから始める? 最適なタイミングと期限

「いつまでに片付けなければいけないの?」 「四十九日も過ぎていないのにガサゴソと片付け始めたら、親戚に白い目で見られるかも……」

心の準備ができても、次に立ちはだかるのが「時期」の問題です。早すぎると「薄情だ」と非難されそうで怖いし、かといって遅すぎると「だらしない」と思われたり、損をしたりしそうで怖い。

結論から言えば、「心の問題には期限はないが、お金と法律には明確な期限がある」というのが現実です。

ここでは、感情論ではなく、現実的に「いつ動くのが損をしないか」という視点で、あなたを守るためのスケジュールを解説します。

実は一番怖い「お金」の期限

私が最も後悔している実体験をお話しします。父が一人暮らしをしていた賃貸マンションでのことです。 悲しみに暮れて片付けを先延ばしにし、なんとなく契約をそのままにしていた結果、誰も住んでいない部屋のために半年分の家賃(約40万円)を払い続けることになりました。

「もう少し心が落ち着いてから」という甘えが、40万円という具体的な損失になって跳ね返ってきたのです。

この失敗は、決して私だけのものではありません。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理を経験した男女350名に「整理のタイミングで最も金銭的に損をしたと感じたこと」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 解約予告が遅れて余分な家賃が発生した(62%)
  • 急いで業者を手配したため割高な料金になった(21%)
  • 解約した後に必要な書類が見つかり再発行手数料がかかった(10%)
  • その他(7%)

※調査期間:2024年1月〜3月 対象:弊社へご相談いただいた遺品整理経験者

ご覧の通り、6割以上の方が、私と同じように家賃で損をしています。 賃貸物件の場合、多くの契約で「解約予告は1ヶ月〜2ヶ月前」と決まっています。

つまり、「片付け終わったら解約しよう」ではなく、「解約日を先に決めて、それに間に合うように逆算して片付ける」のが、金銭的ダメージを防ぐ唯一の方法です。

絶対に守るべき「3つの法的デッドライン」

感情や世間体は一旦置いておき、以下の3つの期限だけは手帳に赤ペンで書き込んでください。これを過ぎると、借金を背負ったり、脱税を疑われたりするリスクがあります。

  1. 相続放棄(3ヶ月以内)
    • 親に借金がある可能性がある場合、死後3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てないと、借金も全て引き継ぐことになります。この間に、部屋の中にある「督促状」や「借用書」を探さなければなりません。
  2. 準確定申告(4ヶ月以内)
    • 親に収入(年金や不動産所得など)があった場合、亡くなってから4ヶ月以内に最後の確定申告をする必要があります。
  3. 相続税の申告(10ヶ月以内)
    • 遺産総額が基礎控除を超える場合、10ヶ月以内に申告・納税が必要です。

まずは部屋の片付けよりも、この「書類探し」を最優先してください。

[参考リンク:裁判所 相続の放棄の申述] [参考リンク:国税庁 相続税の申告と納税]

親族トラブルを避ける「合意形成」のタイミング

お金の期限の次に厄介なのが、親族間のトラブルです。「勝手に捨てた」「あれは私が欲しかったのに」という言葉は、一生のしこりになります。

おすすめのタイミングは、「四十九日」や「一周忌」などの法要の直後です。

親族が集まるその日は、全員で実家に入り、形見分けの相談をする絶好のチャンスです。「これから片付けを本格的に始めるけれど、欲しいものはある?」と全員の前で宣言し、了承を得ておくだけで、後々のトラブルを9割防ぐことができます。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

賃貸でない持ち家の場合、焦る必要は全くありません。「四十九日までは何もしない」と決めても誰も責めませんよ。ただ、空き家を何年も放置すると「特定空家」に指定されて固定資産税が最大6倍に跳ね上がるリスクも将来的に出てきます。まずは「3ヶ月以内の重要書類探し」だけを終わらせて、あとはゆっくりと心のペースで進めていきましょう。

第3章【準備】途中で挫折しないための「仕分け」のルール

さあ、いざ片付けようとゴミ袋を持って部屋に立ったものの、「何から手をつければいいの?」と途方に暮れてしまった経験はありませんか。

私も実家の片付けの初日、とりあえず目についたリビングの引き出しを開けました。そこには母が溜め込んでいた大量の昭和の料理本。パラパラとめくると、私が子供の頃に好きだったハンバーグのページに付箋が。「ああ、これよく作ってくれたな……」

気がつくと、一冊の本を読みふけったまま夕方になっていました。ゴミ袋は空っぽのままです。

遺品整理で最も重要なのは、「思い出の品(感情が動くもの)」を最初に触らないことです。これは鉄則です。

ここでは、感情の沼にハマらず、かつ「捨ててはいけない財産」を確実に見つけ出すための、プロ仕様の仕分けルールを伝授します。

「感情レベル」の低い場所から攻略する

遺品整理を「リビング」や「寝室」から始めてはいけません。そこは思い出の地雷原です。 挫折しないためには、以下の順序で進めてください。

  1. 玄関・下駄箱 (壊れた傘、誰も履かない靴など、判断が秒で終わるモノが多い)
  2. 洗面所・浴室 (使いかけの古い洗剤、カビたタオルなど、明らかな「ゴミ」が多い)
  3. キッチン (賞味期限切れの調味料、コンビニの割り箸など)
  4. 【最後】リビング・寝室・書斎

まずは玄関や水回りで「捨てるリズム」を作ってください。「これはゴミ、これもゴミ」という判断のスピードが上がってきた状態で、初めて難関のリビングに挑むのです。この助走があるかないかで、進み具合は劇的に変わります。

宝探し感覚で! 「隠れ資産」の捜索

ただ捨てるだけではありません。遺品整理は「家の中に隠された宝探し」でもあります。 高齢の方は、銀行を信用せず、現金を家の中に隠しているケースが非常に多いのです。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理を経験した男女350名に「予期せぬ現金や貴重品が見つかった場所」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 本や雑誌の間・ページの中(38%)
  • 洋服のポケット・タンスの奥(29%)
  • 台所の容器・米びつの中(18%)
  • その他(仏壇の引き出し、畳の下など)(15%)

※調査期間:2023年11月〜2024年1月 対象:弊社へご相談いただいた遺品整理経験者

なんと4割近い方が、本の間からへそくりを見つけています。 私も父の古い百科事典をパラパラとめくった際、3万円が入った封筒を見つけました。もし中身を確認せずに紐で縛って捨てていたら……と考えるとぞっとします。

【必ずチェックすべき捜索リスト】

  • 書籍・雑誌の間(特に分厚い本)
  • ジャケットの内ポケット・バッグの底
  • タンスの敷紙の下
  • 額縁の裏側

これらは「ゴミ」に見えても、一度は必ず開いて確認してください。

[参考リンク:金融庁 休眠預金等活用法とは]

迷ったら「保留ボックス」へ投げ込む

作業の手が止まる最大の原因は、「捨てるか、残すか」の二択で迷うからです。 そこで、「保留ボックス(段ボール箱)」を用意してください。

  • 判断に5秒以上かかったら、すぐに保留ボックスへ。
  • 保留ボックスがいっぱいになったら、ガムテープをして「日付」を書き、押し入れへ。

これでいいのです。この箱は、一周忌や三回忌の時に、心の整理がついてから開ければいい。「今決めなくていい」というルールにするだけで、作業スピードは驚くほど上がります。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

重要書類(権利書や保険証券)を探すときは、クリアファイルや封筒に入っているものだけを探しがちですが、実は「チラシの裏」や「適当なノート」に重要なパスワードや借金の情報がメモされていることがよくあります。紙類を捨てる時は、面倒でも一枚ずつサッと目を通す「ザッピング」をおすすめします。それだけで数百万円の損を防げることもありますよ。

第4章【実践】仏壇から着物まで。特殊な遺品の「正しい」手放し方

「仏壇をゴミ集積所に出すなんて、バチが当たりそうで怖い……」
「母が嫁入り道具として大切にしていた着物、二束三文で売るのはあまりに忍びない」

雑誌や衣類のような「普通のモノ」は片付けられても、故人の魂が宿っていそうなモノや、かつて高価だったモノの前では、再び手が止まってしまいます。

私もそうでした。実家の整理中、祖母の代からある日本人形と目が合った瞬間、背筋がゾクッとして、「これをゴミ袋に入れたら呪われるんじゃないか」と本気で怯えてしまいました。

ここでは、そんな精神的な負担を最小限にし、かつモノとしての価値を正しく見極めるための具体的な処分方法を解説します。

「捨て方がわからない」が片付けを止める

実は、遺品整理が停滞する最大の要因は「迷い」です。特に、宗教用具や人形などは、行政のゴミ出しルールを見ても明確な記述がないことが多く、みんなそこで立ち尽くしてしまうのです。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理を経験した男女350名に「処分方法がわからず、最後まで家に残ってしまったもの」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 日本人形・ぬいぐるみ(45%)
  • 仏壇・神棚・位牌(30%)
  • 着物・和装小物(15%)
  • その他(デジタル機器、収集癖のある趣味の品など)(10%)

※調査期間:2024年2月〜4月 対象:弊社へご相談いただいた遺品整理経験者

半数近くの方が、人形やぬいぐるみの処分に困っています。これらは「モノ」でありながら、どこか「生き物」に近い感覚があるからです。

神様・仏様の宿る場所の閉め方

仏壇、位牌、神棚。これらは単なる家具ではありません。だからこそ、処分には然るべき「儀式」が必要です。

  1. 魂抜き(閉眼供養)
    • お寺や神社に依頼して、モノに入っている「魂」を抜いてもらう儀式です。これを行うことで、仏壇は「聖なる場所」から「ただの木の箱」に戻り、位牌は「ただの木の板」に戻ります。こうなれば、法律上も宗教上も、粗大ゴミとして処分しても心理的な抵抗はなくなります。
  2. どこに頼むか?
    • 菩提寺(付き合いのあるお寺):最も確実です。「お布施」として1万〜5万円程度が相場です。
    • 遺品整理業者:提携している僧侶を派遣してくれるサービスがあります。お寺との付き合いがない場合はこれが便利です。

「バチが当たる」という不安は、この儀式を行うことで驚くほど解消されます。

視線が怖い「人形・写真」の手放し方

人形や写真が捨てにくいのは、そこに「目」があるからです。目が合うと、まるで「捨てないで」と訴えかけられているような気分になります。

【罪悪感を消す2つの方法】

  1. お焚き上げ(供養)を利用する
    • 神社やお寺、または郵送で受け付けてくれる「お焚き上げサービス」を利用します。炎で浄化してもらうことで、「捨てる」のではなく「天に還す」という形をとります。
  2. 白い布や紙で「目」を隠す
    • 家庭ゴミとして出す場合、そのまま袋に入れるのは避けましょう。顔を白い布や紙で優しく包み、「今まで見守ってくれてありがとう」と感謝を伝えてから袋に入れます。視線を遮断するだけで、罪悪感は大きく軽減されます。

価値があるか分からない「着物・骨董品」

「高かったのよ」と母が自慢していた着物や、父が集めていた掛け軸。「捨てるのはもったいない、でも価値が分からない」という場合、どうすればいいのでしょうか。

結論から言うと、「過度な期待はせずに、プロに見てもらう」のが正解です。

現代では着物の需要が減っており、数十万円した着物が数百円の査定になることも珍しくありません。しかし、中には「人間国宝」の作品などが混ざっている可能性もゼロではありません。

  • 出張買取を利用する:大量にある場合は、自宅まで来てくれる業者が便利です。
  • 「寄付」という選択肢:値がつかない場合でも、リメイク素材として活用する団体などに寄付すれば、「ゴミにせずに済んだ」という心の平穏が得られます。

[参考リンク:環境省 リユースの取組(着物などの再利用について)]

現代の遺品「デジタル機器」の落とし穴

最後に、忘れがちなのがパソコンやスマートフォンなどの「デジタル遺品」です。

パスワードがわからず中身が見られないまま放置していると、月額課金(サブスクリプション)がずっと引き落とされ続けたり、ネット銀行の残高が不明なままになったりします。

  • まずは通帳を確認:クレジットカードや銀行の引き落とし履歴から、有料サービスを特定し、解約手続きを行います。
  • 中身を見ずに初期化:見られたくないデータがある可能性も考慮し、重要な金融資産の確認さえ済めば、中身を精査せずに初期化(工場出荷状態に戻す)して処分するのも、故人のプライバシーを守る優しさです。

[参考リンク:独立行政法人情報処理推進機構(IPA) スマートフォンなどの情報セキュリティ]

【編集長からのワンポイントアドバイス】

デジタル遺品で特に注意してほしいのが、パソコンやスマホの「パスワード解除」です。なんとなく思いつく誕生日などを入力したくなりますが、何度も間違えるとロックがかかり、二度と開けなくなる(データ消去される)設定になっていることがあります。「3回試してダメなら専門業者へ」など、引き際を決めておくのがデータを守るコツですよ。

第5章【外部委託】自分たちだけでは無理だと感じた時の「プロの頼り方」

「週末に少しずつやれば終わるだろう」 そう高を括っていた私は、半年経っても一向に減らない荷物を前に、ついに実家の廊下で座り込んでしまいました。 終わりの見えない作業、埃っぽい空気、そして蘇る悲しみ。これらが積み重なり、体力よりも先に心が折れてしまったのです。

「業者に頼むなんて、親の愛を金で片付けるようで申し訳ない」

そう思っていませんか? その考えは捨ててください。

プロに頼むことは「手抜き」ではありません。あなた自身の生活を守り、そして故人の部屋を「ただの散らかった部屋」から「きれいな思い出の場所」に戻すための、賢明な選択です。

ここでは、業者選びで絶対に失敗しないための、リアルな防衛術をお伝えします。

「不用品回収」と「遺品整理」は似て非なるもの

まず、検索する時に間違えてはいけないのが業者の種類です。トラックで町を巡回しているような「不用品回収業者」と、専門の「遺品整理業者」は、目的が全く違います。

  • 不用品回収業者:ゴールは「部屋を空にすること」。荷物は「ゴミ・資源」として扱われます。作業は早いが、雑に扱われるリスクがあります。
  • 遺品整理業者:ゴールは「遺族の心の整理」。荷物は「遺品」として扱われます。権利書や思い出の品を探索し、供養まで行ってくれる場合もあります。

親の家をただの「ゴミ処理現場」にしたくないのであれば、必ず「遺品整理」を専門に掲げている業者を選んでください。

実際にあった「業者トラブル」のリアル

しかし、残念ながらこの業界には悪質な業者も紛れ込んでいます。「安ければいい」という基準で選ぶと、痛い目を見ることになります。

私たちは独自に、業者利用時のトラブルについて調査しました。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理業者を利用した男女350名に「業者とのトラブルや、後悔していること」を聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 見積もりにはなかった「追加料金」を作業後に請求された(42%)
  • 作業が雑で、壁や床に傷をつけられた(28%)
  • 残しておくはずの形見まで勝手に処分された(18%)
  • その他(12%)

※調査期間:2023年9月〜11月 対象:弊社へご相談いただいた遺品整理経験者

最も多いのが「金銭トラブル」です。「トラックに積みきれないから」といって当日に数万円〜数十万円を上乗せ請求されるケースが後を絶ちません。 疲れ切っている遺族は「もう揉めたくない」と支払ってしまうことが多いのです。

[参考リンク:国民生活センター 廃品回収サービスでのトラブル]

信頼できる業者を見抜く「3つの質問」

では、どうすれば優良な業者を見つけられるのでしょうか。見積もりに来た担当者に、必ず以下の質問を投げかけてください。この反応で、その業者の質が分かります。

  1. 「追加料金が発生する可能性はありますか?」
    • 優良業者:「当日にお客様からの追加要望がない限り、見積もり以上の金額は1円も頂きません」と断言します。
    • 悪質業者:「状況によりますね……」と言葉を濁します。
  2. 「貴重品が見つかったらどうしますか?」
    • 優良業者:「作業を止めて、必ずお客様に確認していただきます」
    • 悪質業者:「こちらで適切に処理します」(ネコババのリスクあり)
  3. 「万が一、壁などを傷つけた場合の補償はありますか?」
    • 損害賠償保険に加入しているかどうかの確認です。プロなら必ず入っています。

費用相場の現実を知る

「高い」と言われる遺品整理ですが、相場を知らないとボッタクリにも気づけません。 荷物の量によりますが、目安は以下の通りです。

  • 1K・1R:3万〜8万円
  • 2DK・2LDK:12万〜25万円
  • 一軒家(4LDK以上):22万〜60万円以上

これよりも「安すぎる」見積もりを出す業者には裏がある(不法投棄や追加請求)と疑ってください。 彼らは人件費と処分費を削る魔法を使えるわけではありません。適正価格には理由があるのです。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

業者選びで最も大切なのは「相見積もり」です。最低でも3社から見積もりを取ってください。 そして、見るべきは「金額」だけではありません。「担当者の靴下」を見てください。玄関に上がる時、汚れた靴下で平気で上がる人は、故人の遺品も汚く扱います。清潔感があり、故人に合掌してから部屋に入るような担当者なら、多少高くてもその人に任せる価値があります。それは「安心料」です。

「売れるもの」は費用から引いてもらう

少しでも費用を抑えるテクニックとして、「買取査定」も同時に行ってくれる業者を選ぶのがおすすめです。

  • 製造5年以内の家電
  • 骨董品、貴金属
  • 贈答品のタオルや食器(箱入り)

これらをその場で査定し、作業費用から差し引いてもらうことで、支払額を数万円単位で安くできる場合があります。「ただ捨てる」のではなく「価値を活かす」ことで、お財布にも心にも優しい整理が可能になります。

[参考リンク:環境省 不用品回収業者に関する注意喚起]

第6章【その後】整理を終えた後に残るもの

業者のトラックが去り、ガランとした実家の部屋に戻ったとき。 そこにあるのは、圧倒的な「静寂」です。

私が父の部屋の片付けを終えたとき、最後に残ったのは、綺麗に拭き上げられた床と、窓から差し込む夕日だけでした。 「ああ、終わったんだ」という安堵感と同時に、胸にぽっかりと穴が開いたような寂しさが押し寄せてきました。

しかし、片付けは「終わり」ではありません。そこから、あなた自身の新しい生活と、思い出との新しい付き合い方が始まります。

最終章では、物理的な整理を終えた後に残る課題(形見分け・不動産)と、あなたの心のケアについてお話しします。

「形見分け」は押し付けないことがマナー

遺品整理で出てきた時計や宝石、着物。これらを親族や友人に贈る「形見分け」は、故人を偲ぶ美しい習慣ですが、現代ではトラブルの種になることもあります。

「これは高かったから」「あなたにあげる」と一方的に渡していませんか? 受け取る側にも生活があり、趣味があります。

【お片づけの窓口独自アンケート】

遺品整理を終えた後、親族間や知人間で発生したトラブルについて男女350名に聞いたところ、以下の結果となりました。

  • 実家(不動産)の売却や維持管理に関する揉め事(55%)
  • 形見分けされた品が不要で、処分に困ると言われた(22%)
  • 遺産分割(現金化・売却益)に対する不満(15%)
  • その他(8%)

※調査期間:2024年3月〜5月 対象:弊社へご相談いただいた遺品整理経験者

意外にも2割以上の方が、良かれと思って渡した形見が「迷惑」がられているという現実があります。 形見分けの極意は、「相手に選ばせること」です。

「もし気に入ったものがあれば、使ってもらえると父も喜ぶから、今度見に来てね」 これくらいのスタンスが、お互いに負担にならず、最もスマートです。

「空き家」になった実家をどうするか

遺品がなくなると、次に直面するのが「空っぽの家」の問題です。 持ち家の場合、人が住まなくなった家は驚くほどのスピードで傷みます。

選択肢は大きく分けて3つです。

  1. 売却する
    • 維持費(固定資産税・保険・修繕費)から解放されます。築年数が古い場合、「古家付き土地」として売るか、「更地」にして売るかの判断が必要です。
  2. 賃貸に出す
    • リフォーム費用がかかりますが、家賃収入が得られます。ただし、大家としての管理責任が発生します。
  3. 解体する
    • 更地にすると管理は楽になりますが、建物がなくなると土地の固定資産税の優遇措置がなくなり、税金が最大6倍になる可能性があります。

ここで重要なのは、「先送りしないこと」です。「とりあえずそのままにしておこう」が一番危険です。特定空家に指定されるリスクだけでなく、放火や不法投棄の温床になる危険性があるからです。

[参考リンク:国土交通省 空き家・所有者不明土地等対策の推進]

「片付けたからこそ」思い出が輝きだす

最後に、あなたの心の話をさせてください。

「あんなにたくさんあった父の荷物を捨ててしまった」と、空っぽの部屋を見て自分を責めてしまうかもしれません。 でも、思い出してください。モノで溢れ返っていた時の部屋を。あの時、あなたは埃にまみれた荷物に圧倒され、故人を偲ぶ余裕さえなかったはずです。

片付けたことによって、空間に「余白」が生まれました。 その余白こそが、あなたがゆっくりと故人を思い出すためのスペースです。

汚れた部屋で何かに追われるように過ごすよりも、綺麗になった部屋で、たった一つの形見の湯呑みでお茶を飲む時間の方が、何倍も故人を近くに感じられるはずです。

遺品整理とは、「モノ」を減らすことで、「思い出」の純度を高める作業だったのです。

【編集長からのワンポイントアドバイス】

全てを終えたあなたへ、本当にお疲れ様でした。 もし、まだ寂しさが消えないなら、実家の庭やベランダにあった植物を一つ、自分の家に持ち帰ってみてください。植物は生きています。水をやり、新しい葉が出るのを見るたびに、「命は形を変えて続いている」と感じられるはずです。それは、どんな高価な宝石よりも、あなたの心を癒してくれる「生きた形見」になりますよ。

終わりに:これからのあなたへ

ここまで読み進めてくださり、本当にありがとうございます。

第1章では罪悪感に震え、第2章で期限に焦り、第3章・4章でモノと格闘し、第5章でプロの力を借りる決断をした。 その長い旅路の果てに、今のあなたがいるはずです。

遺品整理を終えたあなたは、もう「過去」に縛られた存在ではありません。 故人への最高の供養は、遺されたあなたが、綺麗になった空間で、心身ともに健やかに、笑顔でこれからの人生を歩んでいくことです。

「片付けられない」と悩んでいたあの日々は、故人があなたにくれた「心の整理期間」だったのかもしれません。

どうぞ、これからは少し軽くなった心で、あなた自身の幸せのために時間を使ってください。 それが、天国にいる大切な人が、一番望んでいることなのですから。

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